(近眼の男)
いやはや何とも困りました。
ワタシの大切な銀時計。
大事な約束があるのに、
どこを探しても見当たらぬ。
(山高帽の男)
おやおや、それは大変ですね。
ワタシも一緒に探しましょう。
ちなみにその銀時計とやらは、
どんな特徴でございましょか?
(近眼の男)
よくぞ聞いて下さいました。
お洒落でモダンな値打ちもの。
絶対に狂ったり致しません。
そこいらの安物と大違い。
銀時計は、どこへいった?
時は金なりホラ早くしろ。
銀時計を、探し出せよ!
約束の時間はあとわずか。
(山高帽の男)
それでは誰かに聞いてみよう。
それでは誰かに聞いてみよう。
銀時計はどこか知りませんか?
(山高帽の男) なかなかどうして見つからぬ。
どこへ消えたのか銀時計。
ワタクシメの時計でよかったら、
ひとまず貸して差し上げましょうか?
(近眼の男) やだやだ、そんなボロい時計!
そんなのじゃ恥をかくだけだ!
美しいビンテージじゃなけりゃ、
ワタシの身分とは釣り合わぬ。
(山高帽の男)
おぅ! なんだとコラ、この恩知らず!
良かれと思って言ったのに、
キサマのような失礼なヤツは、
時計の針に刺されるがいい!
・・・ついに銀時計は見つからず、
約束の時間にも間に合わず、
愛想を尽かされて、見放されて、
哀れ、なにもかも失った。
自分が一番優れてる。
実はそれが一番愚かしい。
プライドや名誉に自惚れて、
いつかはすべてが水の泡。
銀時計は、どこへいった?
時は金なりホラ早くしろ。
銀時計を、探し出せよ!
今さら気付いても手遅れだ。 おしまい。